2016年度の研究テーマ

バーチャルバッティングトレーニングシステム

タイミングに着目したバーチャルバッティングトレーニングシステムの開発を行っています.ここでのタイミングとは,投球に対して打つと判断してバットを振り始めるタイミングのことです.従来のタイミング訓練は,何球も投球を見てタイミングを見極めており,正しく見極めできたかどうかの判断が難しいものでした.本研究では,バーチャルリアリティならではの訓練システムにより,タイミングを誘導することで,正しいタイミングを学習することができます.また,訓練時には投球が遮断される遮断投球を使用します.打者の「投球を途中まで見て,その後は予測し球の到達点に目線を先送りする」と言う知見から,打者が本来見ていない部分は見せずに訓練することができます.本訓練システムでは,ヘッドマウントディスプレイによるVR空間の提示をしているため,あたかも自身がバッターになったかのような感覚を味わうことができます.
関連文献
加藤雅人,坂口正道:選球眼を鍛えるバーチャルトレーニングシステムの提案,第17回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2016), 2O3-6, pp.2107-2111 (2016)

2015年度の研究テーマ

頸部への温度提示による印象誘導

温度は人間や生物にとって重要な環境パラメータの一つです.このため,エアコンやストーブなどの多くの温度制御機器が開発されていますが,これらの多くは温度を一定に保つ事が目的であり,急激に温度を変化させることは想定されていません.温度感覚は,空間分解能や時間分解能はそれほど高くないものの,急激な温度の変化は危険の察知にも利用されており,各種の情報提示に応用できる可能性は高いと考えられます.温度変化を用いたインタフェースの多くはペルチェ素子が用いられていますが,ペルチェ素子の主な目的はCPUなどの機器の冷却などであり,応答速度が速くならないという課題があります.そこで本研究では,熱媒体として比熱が大きく粘度が低い水を用いたシステムを提案します.弁により流れる温水・冷水を切り換えることで提示部の温度を高速に変化させます.これにより,約30℃の温度差を約1秒で切り換えることが可能となりました.このシステムの別のコンテンツと組み合わせを検討しています.
関連文献
早川恭平,小松祐介,坂口正道:温度提示が風景写真の季節感に与える影響に関する研究,第16回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会 (SI2015),1L3-6,pp.932-936 (2015)
坂口正道,穂永涼,今井和紀,早川恭平:水の流量を利用した温度提示システムの開発に関する基礎研究,第19回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集,32A-5, pp.448-449 (2014)
Masamichi Sakaguchi, Kazuki Imai, Kyohei Hayakawa: Development of High-Speed Thermal Display using Water Flow, Human Interface and the Management of Information. Information and Knowledge Design and Evaluation. Lecture Notes in Computer Science Vol.8521, pp.233-240 (2014)
坂口正道,今井和紀,清水俊介:水の流れを用いた温度提示システムの開発,第17回日本バーチャルリアリティ学会大会(VRSJ2012),31D-6, pp.459-462 (2012)
坂口正道,尾畑宏幸,清水俊介:温水と冷水を用いた高速温度提示システムの構築,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2012 (Robomec2012),1A1-A01 (2012)
尾畑宏幸,坂口正道,藤本英雄:水とお湯を用いた温度ディスプレイの開発,第12回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会 (SI2011), 1I4-6, pp.679-680 (2011)

サーマルグリル錯覚提示

温度感覚に関してサーマルグリル錯覚という錯覚があります.温刺激と冷刺激を交互かつ同時提示するとあたかも火傷を負ったかのような痛みや灼熱感,不快感が生じるというものです.皮膚に損傷を与えることなく,擬似的に痛みを生起させることが可能であるため,この錯覚をヒューマンインタフェースへの様々な応用が考えられます.そこで本研究室では,熱媒体に水を用いて,サーマルグリル錯覚をより多くの人により強く生起可能なデバイスを開発し応用を検討しています.
関連文献
小松祐介,早川恭平,坂口正道:水の流れを用いたサーマルグリル錯覚提示デバイスの試作, 第16回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会 (SI2015),2L1-7,pp.1766-1768 (2015)
小松祐介,早川恭平,坂口正道:サーマルグリル錯覚ディスプレイの提示面に関する考察,日本バーチャルリアリティ学会力触覚の提示と計算研究会第16回研究会, HDC16-02 (2015)

書字動作支援システムの開発

書字動作支援ロボットの開発を行っています.書道教室などで,先生が生徒の手を取って一緒にきれいな文字を書くという指導が行われています.私が開発したロボットは,この先生のように書き手と一緒にペンを握って適切な力を加えることで,きれいな文字を書く支援を行います.始めは,ロボットに強制的に動かされていると感じる問題がありました.そこで,人が実際に文字を書く時の動きを研究したところ,書く線の曲がり方によって速度が変化していることが分かりました.ロボットにこの速度を再現させることで違和感を小さくすることに成功しました.現在は,お手本通りではなく個人の特徴を残したまま文字をきれいにする支援を目指しています.
関連文献
名知貴明,坂口正道:位置と速度による受動的な書字動作支援システムの開発,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2015 (Robomech2015),1P1-H10 (2015).

視覚と触覚の同時提示により運動錯覚を誘発するボール回しシステム

錯覚を利用したリハビリテーション機器の開発を行っています映像などを通して,実際に自分が動いていないにも関わらず,動いたと錯覚してしまうことを運動錯覚と呼びますこの運動錯覚は麻痺のリハビリテーションなどに利用されていますそこで健身球と呼ばれる二つのボールを回すリハビリテーションに着目し,患者の手に重ねたモニターでボール回しの映像を見せながら,実際に回っているボールを患者の手に押し当てる装置を開発していますこの装置により,患者は視覚と触覚でボール回し運動を体験でき,強い運動錯覚を起こすことができることを確認しました.
関連文献
坂口正道, 馬場健太郎:運動錯覚を誘発するボール回しシステムの視覚と触覚の同期に関する研究,第20回日本バーチャルリアリティ学会大会, 11A-3, pp.9-11, 2015.
馬場健太郎,坂口正道:リハビリテーションを目指した視覚と触覚を同時に提示するボール回しシステムの開発,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2015,1P2-M08, 2015.
馬場健太郎,坂口正道:視覚と触覚の同時提示により運動錯覚を誘発するボール回しシステムの開発,第15回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会,1K1-4, pp.783-784, 2014.

鏡像運動を利用したリハビリテーション支援器具の開発

片麻痺患者のための上肢リハビリテーション支援機器の開発を行っています.現在,片麻痺の回復を図る方法の一つとして,Cミラーセラピーが行われています.これは健常肢が映った鏡の裏に麻痺肢を置き,鏡を見ながら健常肢を動かしたときに,あたかも麻痺肢が動いていると錯覚する現象を利用したリハビリテーションです.本研究では,このミラーセラピーに着目し,錯覚ではなく実際に麻痺肢を動作させることによって,よりリハビリテーション効果が高まると考え,健常肢の動きを麻痺肢に伝える機器を開発しました.本装置は誰でも手軽に利用できるように,モータ制御やコンピュータ操作などの専門知識を必要としないシンプルな構造とし,訪問看護でのリハビリテーションが行えるよう,軽量で持ち運びが可能な設計を行いました.今後は,実際に医療や介護の現場で使用して,十分なリハビリテーションの効果が得られるかを検証したいと考えています.
関連文献
Kosuke KITOMI,Masamichi SAKAGUCHI,Mitsuya HORIBA,Ikuo WADA:Development of the Mirror Therapy System with Tactile Sense Presentation,Proceedings of the 6th International Conference on Advanced Mechatronics (ICAM2015),1A1-02,pp.3-4 (2015).
木富康介,坂口正道,堀場充哉,和田郁雄:触覚提示機能を付与したミラーセラピーシステムの開発,第20回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集,32A-3, pp.383-386 (2015).
安部沙織,木富康介,坂口正道:鏡像運動を利用したリハビリテーション支援器具の開発,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2015 (Robomech2015),1P2-L08 (2015).
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